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岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)212号 判決

原告 岡山建設工事株式会社

右代理人 森末繁雄

被告 山陽電子工業株式会社

〈ほか一名〉

右代理人 河原太郎

〈ほか一名〉

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は各自原告に対し、三八万五二〇〇円およびこれに対する昭和四一年八月二二日以降右完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、原告は建設工事業者なるところ、被告山陽電子工業株式会社(以下単に、被告会社という。)代表取締役下村全吾との間に、昭和四一年一月八日、原告が被告会社の社宅の建築工事を完成すべく、被告会社はこれに対して一三〇万円の報酬を与える旨の契約を結び、その後同年二月初旬、両者間に右約旨の報酬を一二〇万円に減額する旨の約がかわされた。

二、原告は約旨にそう工事を施行中、被告会社から二六万四二〇〇円相当の追加工事を求められて、これに応じ、結局、この工事をも含めて被告会社注文どおりの工事全部を昭和四一年六月上旬頃完成して、同会社に引渡した。

三、被告下村は本件工事中に被告会社の原告に対して負担する約旨の報酬支払債務につき、重量的にこれが引受けをした。

四、よって、前記約旨の報酬合計一四六万四二〇〇円中、未払残金部分たる三八万五二〇〇円とこれに対する右引渡後たる昭和四一年八月二二日以降完済にいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を被告等両名各自に対して求める。と述べ、被告主張の抗弁事実中、その主張の日時に原告が一〇〇万円を受領したことは認めるが、その余は否認する。

右金員は内金として受領したにすぎないと陳述し(た。)

立証≪省略≫

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実中、原告が建設工事業者であることを認め、その余の事実を否認し、もっとも、被告下村が個人として、原告主張の日時に原告との間で、自らの住宅の建築工事を一三〇万円、後に一二〇万円に減額した報酬で完成してもらう旨の契約を結び、その後、追加工事を求めたことはあるが、その追加工事に要すべき金額、工事の約旨にそう完成、また、引渡の日時等については、いずれも原告の主張するところは事実でない、と述べ、抗弁として、仮りに被告等の右主張が理由のないものであるとしても、被告下村は昭和四一年八月二二日に原告との間で、本件工事の報酬の支払に関して生じた両者間の紛争につき、互に譲歩して、一〇〇万円で一切解決済とする旨の約を結び、即日約旨の一〇〇万円を原告に支払ったものである、と述べ(た。)

立証≪省略≫

理由

原告会社が原告主張の日時に被告下村との間で住宅の建築工事をその主張の額の報酬で完成すべき旨約したことは当事者間に争がない。

右契約が原告と被告会社代表者たる下村との間でなされたものか、あるいは被告個人との間でなされたものかにつき争があるので、この点について判断する。

≪証拠省略≫によれば、右下村は原告会社に対して本件工事を発注するにつき、当初から、被告会社の社宅としてではなく、自分個人の住宅を建築する心組であったことを認めることができ、これを覆えすに足る確証はない。また、右発注のさい、下村が被告会社の代表者として契約する旨表示したとの証人大守好夫の証言は措信できず、他に全立証をもってするも右事実を認めることはできないし、また、下村が原告に対して、該住宅を社宅である旨示したとか、被告会社が当時社宅を建てることをうかがわせるような状況にあったとかいうような事実を認めることもできない。してみれば、本件契約締結につき、下村のなした意思表示には、被告会社代表者としての効果意思もなければ、表示行為もないと言わざるをえない。

意思表示における表示行為は客観的に観察すべきものであるところ、≪証拠省略≫を綜合すれば、原告は従前被告会社から数回建設工事を請負っており、本件契約の場合も、下村が被告会社の代表取締役であり、かつ個人として契約する旨を明示しなかったところから、被告会社の発注と思いこみ、見積書等の作成にあたっても宛先を被告会社と表示していた事実を認めることができるが、さきに認定した事実の下ではこのような事実の存在をもって、本件下村の意思表示に被告会社代表者としての表示行為が客観的に存していたとなすことはできず、前示判断を妨げる事由となすに足らない。

しからば、原告と被告会社との間に本件契約が締結されたとしてなされた原告の被告会社に対する請求が失当であることは勿論、またこれを前提とする被告下村に対する請求も、他に原告と被告下村個人との間に本件契約が締結されたことを主張するならば格別、しからざる以上、同様に失当と言うほかはなく、爾余の判断をするまでもなく、いずれも棄却すべきものである。

よって、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 裾分一立)

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